レーシングカーの事故が発生すると、プロが事故を起こすんだから自分も気を付けなくてはという戒めの念が出てくると同時に、なんで事故が発生したの?と疑問に思う人もいるでしょう。
そこでこの記事ではF1事故の中でも特に最悪だと言われているマーティンドネリー事故の原因について紹介しています。
マーティンドネリーの事故の原因と呼ばれている部品
マーティンドネリーの事故は、プルロッドとロッカーアームに不具合が起きたことが原因とされています。プルロッドロッカーアームがどこの部品か分からないという人は、F1カーを正面から見た姿を想像してください。タイヤのシャフトと一緒に何本か細い棒が見えると思いますが、この棒がプルロッドという部品で、路面の凸凹に合わせてサスペンションが動作します。一方ロッカーアームとはエンジンの吸排気を行うための運動量を伝達するためのパーツです。
つまりこれらの不具合が同時に起きたということは、エンジンとハンドリングの両方に不具合が発生したため、操縦不能となってマーティンドネリーの事故が発生したものと思われます。
事故当時のテレメトリーを調査した結果
F1のレーシングカーにはテレメトリーという、沢山のセンサーからコースやマシンの状態を確かめるモニターツールが存在します。そのモニターツールによると、マーティンドネリーの事故発生時には、時速225㎞出ている状態で左フロントのサスペンションが壊れたことが分かっています。しかもマーティンドネリーの事故が発生したのは高速コーナーなので、ハンドリング中にサスペンションが壊れ、意図せぬ衝撃が来たことで操縦不能になったものと思われます。
皆さんも自転車に乗っていて、誤って地面の石を踏んづけてハンドルが不安定になった経験ありませんか?恐らくドライバーにもそれと同じような感覚が42Gという極大の重力の中で発生したのでしょう。
事故が発生したサーキットに原因は無かったのか調査
マーティンドネリーの事故は1990年スペインGPのヘレスサーキットで発生したので、サーキット自体に問題が無かったのか調査してみました。その結果CurvaÀlexCrivillé付近で発生していることが分かり、マーティンドネリーの事故発生後には、コースの改修が行われています。つまり、公開されてはいませんが運営からも事故が発生しやすいセクションなのではと認識されたわけです。
これはあくまで個人的な分析ですが、改修前のへレスサーキットは、CurvaPeluquiやCurva Ángel Nietoという直角カーブの間にストレートセクションがある形でした。したがって、タイムを出すにはできるだけストレートで速度を出し、カーブでブレーキを掛ける必要性があるので、マーティンドネリーの事故発生当初もかなりブレーキに負荷がかかっていたものと思われます。その上部品の一部が破損したことで、ダウンフォースによって速度を落とすことが困難になり事故が発生したのではと思われます。
マシンレギュレーションに原因はあるか考察
マーティンドネリーの事故が発生した1990年は、火災が発生しないようにマシンの燃料タンクの設置する高さが変更されましたが、他に走行の影響に出そうなレギュレーション変更はありませんでした。しかし、燃料タンクの位置を変更した影響からか、マーティンドネリーの事故発生時には火災は発生しておらず、他のマシンを巻き込むこともなかったので、レギュレーション変更が功を奏したと考えることもできます。
また、運営面ではコースの危険位置とされる場所にマシンが停止した場合、マシンが走行可能でも失格になるという規定が追加されています。結果リタイアするマシンが増えたという悪しきレギュレーションになりましたが、マーティンドネリーの事故に直接的な影響を及ぼしたわけではないようです。
チームの将来性の不安から事故が起きた可能性
実はマーティンドネリーの事故が発生する直前の8月に、R.J.レイノルズが今期でチームスポンサーを降りることが発表されていました。つまり、マーティンドネリーは来期のスポンサーを心配しながら走っていたため、多少危険な走行にも挑戦してポイントを獲得しようとしていたのではないでしょうか。
F1ドライバーにはフィジカルサポートのスタッフだけでなく、メンタル面のサポートをするスタッフもいるほど気持ちがドライビングに影響すると言われています。つまり、スペインGPに出走していたマーティンドネリーは本来レースに出場できる心理状態ではなかったのかもしれません。せめてスポンサーを降りる発表をレースシーズンが終わってから発表していればもう少し結果が変わったかもしれませんね。
マーティンドネリーの現在
マーティンドネリーは事故から生還しましたが、長いリハビリ生活を余儀なくされた上に、左足の一部が欠損してしまい歩行能力に障害が残ってしまいました。したがって、本格的なレーサー復帰は無理とされていましたが、2015年にイギリス・ツーリングカー選手権で3回だけ出走しています。残念ながらポイントを獲得するまでには至りませんでしたが、それでも再びサーキットに戻ってきたマーティンドネリーを多くのファンが歓迎していました。その後はイギリスのコムテックレーシングでドライバー育成マネージャーの仕事をする傍ら、F1の競技審査委員の仕事をしています。ちなみにマーティンドネリーは、以下のようなレースで競技審査委員を担当したことが分かっています。
- 2011年F1韓国GP
- 2012年F1カナダGP
- 2012年F1韓国GP
- 2013年F1カナダGP
- 2013年F1アブダビGP
- 2014年マレーシアGP
映画のネタになるほど有名なマーティンドネリー
マーティンドネリーの事故は2025年6月から日本で上映開始されたF1/エフワンという作品のモデルにもなっています。しかも主人公をブラッド・ピットが演じていることで話題性がすごく、全世界合計の興行収入が672億円にも上りました。レーシングチームのリアルを描いているので、F1レースファンからも注目されています。特に主人公がコース上に横たわっている姿は、実際のマーティンドネリーの事故の映像を使っているため非常にリアルです。明らかに足の関節が間違った方向に曲がっているので、事故映像が苦手な人はちょっとしたホラー体験になることでしょう。
まとめ
マーティンドネリーの事故はブレーキとハンドリング部品の故障により発生し、ドライバーを引退にまで追い込んでしまいました。しかし、コースを改修したりマシンのレギュレーションを変更したりすることで現在は事故防止に一定の効果があることが確認されています。それでもレースを続ける以上どうしても事故が発生する確率を完全に0にはできません。したがって、今は競技審査委員としてレースに参加しているマーティンドネリーには公正で安全なレース運営をしてほしいですね。